トイレのしつけケーススタディー

犬のしつけの第一歩、トイレトレーニング。4匹の犬の体験談をご紹介します。

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Q.犬のトイレのしつけ、うまくいくポイントは?

1. 無視する
2. 音をさせる
3. おやつをあげる
4. その他

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山田ノアちゃんのケース

暮らし

山田さん(仮名)ご夫婦は、共働きでいらっしいます。朝、お仕事に出かけ、夕方帰ってくるまでの間、ノアちゃん(仮名)は自宅のサークルの中でお留守番です。ノアちゃんのトイレトレーニングは、ノアちゃんがペットショップから山田さんのお宅にやって来たのとほとんど同時に始まりました。ノアちゃんにはペットショップにいたときから自分のしたうんちを食べる行動(食糞行動)が見られ、山田さんの家に来てからも続いていました。

トレーニングの経過

1. 記録期間

山田さんと、トイレについて話し合いました。山田さんのお宅にはすでに、いつもノアちゃんが留守番しているサークルの中にトイレがありました(トイレA)。でも山田さんは、将来的にはサークルの外にトイレを作りたいとお考えです。そこでノアちゃんには、キッチンの奥のスペースにもトイレを作ることにしました(トイレB)。ノアちゃんは、留守番している間はトイレAを使い、山田さんが帰って来てサークルの外に出ているときには、AとB、両方のトイレにアクセスすることができるようになります。そして「サークルから出ているときに、トイレBで排泄できるようにすること」を目標にトイレトレーニングをすることにしました。

2. トレーニング期間

トレーニングを始めるにあたって

トレーニング開始の日、山田さんのお宅へ2度目の訪問をしました。ノアちゃんのトレーニングでは、トイレBで排泄したときにだけご褒美をあげてもらうことにしました。ノアちゃんは、トイレAで排泄してもご褒美はもらえませんが、トイレBで排泄したらご褒美がもらえます。だから、おしっこ・うんちともに、サークルの外にいるときには、トイレAで排泄するよりも、トイレBで排泄することが多くなるだろう、そうすれば将来、トイレBにスムーズに移行することができるだろうと私は考えたのです。 山田さんとご褒美についても話し合いました。山田さんは普段ノアちゃんにあげているおやつを持ってこられました。育ち盛りのノアちゃんは食欲旺盛。ご褒美を助ェ喜んでくれそうです。記録期間の記録を見ると、ノアちゃんはすでにトイレで排泄することがあるようです。そこで「その機会を逃さずご褒美をあげましょうね」というお話しをし、ノアちゃんのトレーニングは始まりました。

ノアちゃんの様子

山田さんはいつでもノアちゃんに気を配り、トイレBで排泄した後にご褒美をあげることを欠かしませんでした。そしてそれに応えるかのように、1日目からノアちゃんに変化が現れました。「明らかに、ご褒美を意識して排泄しています!おしっこしてご褒美をあげたら、得意気にトイレに戻っていき、もう一度おしっこしました」山田さんの観察どおり、1日目のおしっこの回数は、なんと24回でした。そのほかにも、「人をじーっと見ながら排泄したり、排泄し終わると、自分からご褒美をもらいにやってくる」といった行動が見られるようになりました。 山田さんは、ノアちゃんと一緒にいるときだけでなく、留守番中のノアちゃんの様子に関しても、きめ細やかに観察し、記録してくださっていました。山田さんが帰宅したときトイレAには、うんちのシミは残っているのにその姿がないことが多いようです。「かなりの頻度で食べているようだ・・」ということがわかりました。そしてその山田さんの鋭い観察眼のおかげで、私は後々ノアちゃんのトレーニングの経過に大変興味深い発見をすることになるのです。

グラフを見てみよう!

私は当初、おしっこ・うんちともに、ご褒美のもらえないトイレAよりも、ご褒美のもらえるトイレBで排泄することが多くなるだろうと卵zしていました。グラフを見てください。おしっこは確かに、トイレBで排泄したことを示す黒い棒グラフの面積が、トイレAで排泄したことを示す白地に点々模様の棒グラフの面積よりも多いことがわかります。でもうんちは明らかに、黒よりも、白地に点々模様の面積が大きいですよね。しかも最後の7日間では、特に白地に点々模様が目立ちます。私の卵zに反し、ノアちゃんは、ご褒美をあげていないトイレAでうんちすることが多くなってしまったのです。 私は当時、それがどうしてなのか正直なところわかりませんでした。山田さんは「AかB、いずれかのトイレで排泄してくれればかまわない」とおっしゃられていたので、その理由がよくわからないまま、AかB,いずれかのトイレで排泄するようになった段階でうんちのトレーニングを終了し、おしっこのトレーニングをもうしばらく続けた後、トレーニングを終えました。

それから数ヶ月後、修士論文をまとめながら、私はすべての記録をひとつひとつ見直していました。そしてノアちゃんの記録を眺めているうちに、どうしてノアちゃんがトイレAでうんちすることが多くなったのかわかったような気がしたのです。 当時のノアちゃんには、根強い食糞行動がありました。ということは、留守番中トイレAでうんちするたびに、ノアちゃんはうんちというご褒美を自動的に得ていたことになります。ノアちゃんにとって排泄した後でご褒美がもらえるのは、トイレBだけではなかったのです。 ペットショップから山田さんのお宅にやってきたとき、ノアちゃんは随分とやせた子でした。ノアちゃんはペットショップにいる間、子犬が成長するのに必要なだけの食べ物や満腹感が得られていなかったのでしょう。ノアちゃんがペットショップでうんちを食べるようになったのは、そんな背景が関係していると考えられます。「うんちがご褒美なんて、そんなことあるわけないじゃない!」と思われる方もきっといらっしゃるでしょう。すべての犬にとってうんちがご褒美になるわけではないのです。でも、とてもとてもご褒美になりそうもないうんちが、あのときのノアちゃんの目には、ドックフードやおやつと同じように「食べる物」「おなかを満たすもの」と写っていたのではないかということは容易に推測することができます。 山田さんはノアちゃんの食糞行動を治してあげたいと、自宅にいらっしゃるときには、トイレAでうんちをしたときにも、トイレBでうんちをしたときにも、すぐに片付けていたそうです。ということは、ノアちゃんにはトイレBでしたうんちを食べた経験はないことになります。そんな背景も、うんちに関してトイレBではなくトイレAを選択するようになった要因のひとつだと考えられます。「うんちが食べられる」というご褒美が得られる唯一の方法は「トイレAでうんちすること」だったのですから!

ポイント

ノアちゃんは私たちに、とても大切なことを教えてくれました。それは、犬にとってのご褒美は、人間がご褒美として与えてあげているものばかりではない、ということです。いくらトイレAで排泄した後にご褒美をあげないようにしていても、ノアちゃんが自分のしたうんちをご褒美にしていたなら、トイレAで排泄した後にもご褒美を得ていたことになりますね。 そして私たちは、「思ってもみないような物や事が犬にとってのご褒美になる。そしてそのご褒美によって、私たちの関与しないところで犬は自分で学習している」ということに目を向ける必要があります。排泄して欲しくない場所で排泄することが繰り返されているなら、「何か思いがけない“ご褒美”を得ているのではないかな。いや・・ここでばかり排泄するということは、何かがご褒美になっているに違いない!」と考えてみることができます。 みなさんがトイレトレーニングを始めてそんな場面に遭遇したときに、まず疑ってみて欲しいことは、失敗した後で「ダメじゃないの」と声をかけたり叱ったりすることや、後始末をすることです。たとえ叱っているつもりでも、犬にとっては「声をかけてもらった」とうれしいことに感じられご褒美として機狽キる可柏ォがあります。失敗した場所を雑巾を持って床を拭いているときじゃれついているなら、そこで排泄したご褒美に遊んであげているような状態になっているかもしれません。私たちはとかく、トイレで排泄したときには安心して知らん顔しているのに、失敗してしまったときには「汚いから早く片付けなくっちゃ!」「早く消臭剤を!!」と、失敗するや否やその場所にすっ飛んで行ったりします。犬にしてみれば、トイレで排泄したときには得られない「人間から注目される」というご褒美が、失敗したときには排泄直後に得られることになるのです。 今回私は、ノアちゃんにとってうんちがご褒美になっていることに、なかなか気がつくことができませんでした。それに気がつくことができたのは、ノアちゃんの身に起こっている出来事を起きた順番に整理してみたことがきっかけでした。記録を眺め、ノアちゃんの生活を頭に思い描きながら、ノアちゃんの身に起こった出来事を、ピックアップしていきます。「トイレAでうんちした後、ノアちゃんに何が起こるのか・・ノアちゃんは大好きなうんちを目にする!・・そして食べる!」この事実を時系列に並べてみることができたとき、トイレAで排泄した後にうんちというご褒美を得ていたんだ、ということに気がつくことができたのです。 「どうしてここでおしっこ・うんちしてしまうのか?!」と首をかしげたくなったときには、犬の身に起こっている客観的事実だけをピックアップするところから始めてみるといいでしょう。そして排泄した後に起こっている事柄に着目し、それがご褒美として機狽オていないかどうか疑ってみる、そんなアプローチが有効であることがわかります。

ノアちゃんは山田さんの元でスクスクと成長し、やせすぎだったノアちゃんもまもなくとてもよい健康状態になりました。また山田さんの努力によって、今はもううんちを食べなくなったそうです。今も山田さんの元で元気に暮らしています。


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