犬を上手くしつけるのに大切なこと。それは愛情を持って犬をしつけること。実際に深い愛情を持って犬をしつけた人の体験が元になっているこの連載。犬のしつけに悩んでいる人にぜひ読んで欲しい。
1. 声かけ
2. おやつ
3. マッサージ
4. その他
雨が降ると脳裏によみがえる・・あの狭いマンションの一室。
まだ小さかったうちの犬を家にひとり残して会社に行っていたあの頃、せめて留守番の間グッスリ昼寝でもしていて欲しいと、出勤前に2時間、犬と遊ぶことをノルマのように私は自分に課していました。
お天気の日は散歩を1時間、室内遊びを1時間。そして雨の日には、室内遊びを2時間・・。
しかし、おもちゃを渡しても子犬の好奇心はクルクルとめまぐるしく変わり続け、おもちゃ以外のものも次から次へとおもちゃにしていきます。「次は何をしでかすやら」私はオロオロと犬の後ろをついて行くばかり。
「犬ってよく投げたボールを取ってくるけど、うちの子にもできるんだろうか?」。あのときの私にとってそれは「一大決心」だったけれど、この由々しき状況を打破すべくやってみたのです。投げたボールを追いかけてくわえたときに、覚えたての「おいで」を言ってみると・・戻ってきました!戻ってきた瞬間に、ボールはその場に置き去りだったけど、そんなことはどうでもよかった。だって、投げたボールをくわえたっきり、私を置き去りしてどこかへ行っちゃうよりずっとうれしかったんだもの。
何日も何日も繰り返し、「おいで」と言わなくてもボールをくわえて一目散に私のところへ戻ってくるようになったころ、私が犬と過ごす雨の朝の2時間は、全く違うものになっていました。同じ2時間を共有しながら、犬は犬で好きなことをし、私は私でそんな犬に振り回されて「遊ばせる」という“ノルマ”をこなすだけの2時間。それが「投げたボールを取ってくる」という同じルールを共有しながら過ごす時間に。
だから今でも、雨の匂いのする朝には、ふとあのときの小さな感動が胸によみがえります。「犬と人間って、同じルールを共有できるんだ」と気づいたときのあの気持ち。違う方向を向いていた1匹とひとりが、同じ方向を向いて歩き始めたような気がしたあの感覚。それは犬とコミュニケーションするということが、ちょっとわかったような気がした瞬間。(つづく)