犬を上手くしつけるのに大切なこと。それは愛情を持って犬をしつけること。実際に深い愛情を持って犬をしつけた人の体験が元になっているこの連載。犬のしつけに悩んでいる人にぜひ読んで欲しい。
1. 声かけ
2. おやつ
3. マッサージ
4. その他
あっ、毛玉発見!
これは大きいぞ。耳の後ろのつけ根のあたりに、細くやわらかい毛が絡まってできた1センチ大の毛玉。最近よく耳をかいていたのは、これが気になっていたからなのか・・気づかなくてごめんね。
私は、はさみとブラシとドックフードの入ったごほうびケースを持ってくると、犬がよく外を眺めている小さな窓の前に腰を下ろしました。「ここにおいで」とひざをポンと叩き犬をひざに乗せると「外を見ててごらん」と窓の方を向いてすわらせます。
後ろから耳をさわってみます。毛玉をさわってみます。「さわらせてくれてありがとう」じっとしていたらときどきごほうびを口に運んであげます。
毛玉を揉むようにしっかりさわっても、嫌がらずに前を向いていられるようになった頃、私は硬くフェルト状に固まってしまった毛玉に、小さな切り込みを縦に入れ、毛玉を裂くようにしてほぐしていきました。少しずつ少しずつ・・「あ、ひっぱりすぎちゃった。痛くなかった?」と思うたびに「じっとしていられてえらかったよ」とごほうびを口に運ぶ・・。
一体どのくらいの時間が過ぎたのか。こんなに穏やかな午後。小さな窓から注ぎこむやわらかな陽ざしがスポットライトのように私たちを包みこみ、「まるで娘の髪を梳く母親みたい」・・こんな幸せな時間がずっと続くといいのになと思ってしまうような午後。
いつの頃からだろう。こんな気持ちでこの子の体をさわるようになったのは。いたわりながら、楽しみながら・・。
かつての私はトイレや散歩の練習には熱心でも、穏やかにケアを受けられるように教えることには全くと言っていいほど無関心でした。「だってこんなに小さいんだもの。動かないように手で押さえておけばいいし。だっこしちゃえば何でもできるし。そんなこと教えなくたって平気だよ」。そんな私が「本当に教えなければならないことは何なのか」を深く考えるようになったのは、たしかにあのときからでした。(つづく)