ケミストリー(3)

犬を上手くしつけるのに大切なこと。それは愛情を持って犬をしつけること。実際に深い愛情を持って犬をしつけた人の体験が元になっているこの連載。犬のしつけに悩んでいる人にぜひ読んで欲しい。

Q.あることをすると犬のストレスが減り、しつけにいい影響を及ぼすと言われていることがあります。それは何?

1. 声かけ
2. おやつ
3. マッサージ
4. その他

ケミストリー(3):尊く美しきもの(第105号, 2008/11/21)

「だってそうでしょ? 犬のことばっかり見てられる?」。

「犬に変わってもらうために、まず私が変わろう」。そう決心した日、私は犬がトイレでおしっこをしているのを見かけたら、すぐにごほうびをあげようと心に決めたのでした。なのに私が見つけるのは、相変わらず床に広がる水溜りか、遥か前に作られたであろうトイレシートの黄色いしみ。私はいつだって、気づくのが遅すぎる・・。

そんな私に足りないのは「努力」や「心がけ」、そう思っていました。それさえできれば、私にだって犬のイイトコロをとらえることができるようになる。少なくともあの日まで、私はそう信じていました。

そう、あの日。私は慣れない手つきで犬に「アイコンタクト」を教えていたのです。「犬がこっちを向いたらほめる」ひとつひとつ確かめるようにごほうびをあげること数回、犬と私の視線がピタリと重なった・・

「うわぁ、なんてかわいいんだろう!」。

それからでした。私は家の中に、私を見つめるあの瞳を探すようになったのです。私を見ていると注目されるから、犬もますます私を見つめるようになる。それがうれしいから、私もますます犬の姿を目で追うようになる。ちょこんとすわる姿、こっちに駆けてくる姿、そしてトイレに向かって歩き出す後姿! どんなに心がけたって気づけなかった姿が、次々と私の目に飛び込んでくる・・。

私のその変化を心理学のグラフにするなら、「犬のイイトコロに目を向ける」行動の頻度があの日を境に増えていく、きれいな「学習曲線」を描くに違いありません。そして私は確信したのです。変わらなきゃいけないのは私自身に違いない。しかし私を変えたのは「努力」でも「心がけ」でもない!

あの子が授けてくれた小さな小さな「成功体験」、それが私を変えたのです。「学習って、人から犬への一方通行じゃないんだな」。犬の「変化」が私を変え、私の「変化」が犬を変える。まるで化学反応のように、互いが互いに影響を与え続ける・・。私は思う。「だからそれが折りなす変化は、かくも尊く、そして美しい・・私をとりこにして離さない!」。 (おわり)