クオリティ・オブ・ライフ(3)

犬を上手くしつけるのに大切なこと。それは愛情を持って犬をしつけること。実際に深い愛情を持って犬をしつけた人の体験が元になっているこの連載。犬のしつけに悩んでいる人にぜひ読んで欲しい。

Q.あることをすると犬のストレスが減り、しつけにいい影響を及ぼすと言われていることがあります。それは何?

1. 声かけ
2. おやつ
3. マッサージ
4. その他

クオリティ・オブ・ライフ(3):思い出の小瓶 (第112号, 2009/6/9)

それはある日の午後。ウチの犬が7歳を過ぎた頃のことでした。

「犬にさわらせてください」。小さな女の子が声をかけてくれました。「さわってくれるの?ありがとう」そう答えながら辺りを見渡すと、少し離れたところからお嬢さんを見守る笑顔のステキなお母さんの姿。

会釈を交わすと、私は早速女の子に向き直りこう声をかけました。「犬におやつあげてくれる?」。犬の前に手を出してもらい「ここにおやつを乗せるから、お皿みたいにしていてね」。私は犬の体を撫でながら、女の子の小さな手のひらにドックフードをひとつ、またひとつ。

歯をあてることなく、女の子の手のひらからおやつを食べること数回。今度は逆。私が犬の口にごほうびを運び、「ここを撫でると喜ぶよ」と私が撫でていた場所を引き継ぐように女の子に撫でてもらいます。そして見つけたよ! 女の子の満面の笑みと、満足げなあの子の顔。

そんなとき、私は本当にうれしくなっちゃうんだよなぁ。だって、こういうことの積み重ねで、犬はいろいろな人と仲良くなっていくんだもの。「今日はいい散歩ができたなぁ」。満足度100%の帰り道。そして気づいちゃった。

「・・そういや私、ずっと『シャカイカ』やってるよなぁ。なんでだ?!」

そうなのです。あの子が我が家にやってきて「社会化」に取り組み始めた頃、私は「社会化が済む日」がやってくるのだと思っていたのです。社会化が済んで人見知りしなくなったら、わざわざいろいろな人とふれあわせたりする“面倒”なことはしなくていい日がやってきて“楽になる”のだと。

しかし私はやめませんでした。今やもうそれをしなくたって問題ないに違いない。それなのになぜ、私は今でもこうしているんだろう・・。

「ひょっとしたら、私がしてきたのは、最初から『社会化』じゃなかったんじゃないのかな」。

友だちの犬と遊んだこと。おばあちゃんの家に泊まりに行ったこと。小さな女の子とふれあったあの午後の日。そして初めての海・・。私たちがしてきたことをみんなみんな集めて小瓶に詰めて、ラベルをつけるとしたら私はなんて書くのかな。『社会化』? ううん、私はきっとこう書くよ・・『クオリティ・オブ・ライフ』。「うわぁ~」って心躍ったり、「あれれ?」って驚いたり。生かされているだけじゃない。キミに豊かな毎日を・・そう願って私がしてきたこと。命ある限りずっとしていきたいこと。(おわり)

※ 『クオリティ・オブ・ライフ』= Quality of Life =「QOL」=「生活の質」。
「QOLの向上」は、もともとは(人間の)医療、その後、福祉などの分野でも使われようになった言葉。